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前橋地方裁判所 昭和50年(少)1157号 決定 1975年10月06日

少年 K・Y(昭三一・五・六生)

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

第一  公安委員会の運転免許を受けないで、昭和五〇年七月二七日午前〇時三〇分ころ、群馬県勢多郡○○○村○○○○○××番地付近道路において、普通乗用自動車(○××○ ×××号)を運転し

第二  自動車運転の業務に従事している者であるが、前記日時場所において、前記車輛を運転し、県道赤城、沼田線を同大字の赤城神社方面から前橋・赤城県道方面に向け時速約五〇キロメートルで進行していたが、このような場合自動車運転者としては常に前方を注視し対向車歩行者等を事前に発見し衝突等の危険発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにかかわらず、少年はこれを怠り運転技術未熟で車輛を運転するのに気を奪われ前方に対する注視を怠り漫然同一速度で進行した過失により進路左前方のガードレールの前で立話中の○井○(当時二四年)、○島○子(当時二二年)を約三・六メートルに接近してはじめて発見し、あわててハンドルを右に切つたが及ばず、自車前部左側を右両名に衝突させ、○井○に対し全治約三ヵ月を要する脳挫傷、左後頭部切創、左足趾挫創、左下腿挫創などの傷害を、○島○子に対し全治四過間を要する左下腿巨大挫創、膝関節捻挫の傷害を負わせ

第三  前記日時場所において、前記のごとく交通事故を起こし○井○、○島○子を負傷させたのに、その事故発生の日時場所など法律の定める事項を直ちにもよりの警察署の警察官に報告しなかつた

第四  同年九月一〇日午後〇時三〇分ころ、前橋市○○町×丁目××番×号の自宅において興奮幻覚又は麻酔の作用を有するトルエンをビニール袋にたらし込んでみだりにこれを吸入し

第五  A、Bと共謀の上、同年同月一三日午前〇時一五分ころ、窃盗の目的で、前橋市○○○町××××番地○○家具工業株式会社本社工場の東側ガラス窓をあけて同社長○保○明の看守する工場に故なく侵入し

たものである。

(法令の適用)

第一の所為 道路交通法六四条、一一八条一項一号

第二の所為 刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号

第三の所為 道路交通法七二条一項後段、一一九条一項一〇号

第四の所為 毒物及び劇物取締法三条の三、二四条の二、同法施行令三二条の二

第五の所為 刑法一三〇条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号

なお、少年に対する昭和五〇年九月一四日付検察官の送致書(昭和五〇年九月一四日付司法警察員少年事件送致書記載の犯罪事実)によれば、少年はA、Bと共謀して、窃盗の目的で昭和五〇年九月一三日午前〇時一五分ころ、前橋市○○○町××××番地○○家具工業株式会社本社工場に東側ガラス窓を開けて侵入したが、盗難予防のため張込み中の同社員に発見されて、その目的を遂げなかつたものであるというにあるが、少年は右工場内に侵入したところ、中が真暗だつたので二、三歩も進まないうちにマッチをするや直ぐ「こらつ」という声がしたので品物を探しにかからずに外に出たものであると弁疏し、他にこれを覆えすに足る資料もない。してみれば右段階ではいまだ窃盗行為の実行に着手したものと認められないので、住居侵入の事実につき前示第五のとおり認定した。

(要保護性)

少年は、窃盗、道路交通法違反保護事件により、昭和四八年一一月二二日中等少年院に送致され、茨城農芸学院において矯正教育を受け昭和五〇年二月二八日仮退院となつて父K・Iの許に帰つたが、数日就労しただけで無断外泊、朝寝、徒遊の生活をはじめ、不良交遊をして前示第一ないし第三の事件を犯し、身柄事件として当裁判所に送致され、昭和五〇年八月二一日身柄付で検察官送致となり、同月三〇日釈放されるや、旬日を出でずして前示第四、第五の事件を犯したもので、検察官はこのような行状から少年に対しては刑事処分をもつて臨むよりもむしろ保護処分が相当であるとして再び家庭裁判所に送致して来たものである。

以上のような事実から考えると少年は罪責感乏しく、非行傾向は亢進し固定化しつつあるように見受けられる。

よつて、罪質、情状、性格、環境に照らし少年に対しては特別少年院において矯正教育を受けしめるを相当と認め、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 大塚淳)

参考 前橋地検昭五〇・九・三〇付け再送致書

審判に附すべき事由

少年法第三条第一項第一号

前橋家庭裁判所

昭和五〇年八月二一日少年に対する検察官送致決定記載のとおり

(参考)

本件は、貴裁判所から刑事処分相当として送致されたものであるが、少年はその後、窃盗未遂事犯を起こして現在観護処置中であつて、少年の非行歴から判断すると少年の非行程度はかなり大であると思料される。

そこで少年の人格を矯正するためには、本件を刑事処分に付するよりもむしろ前記観護中の事件も含めて保護施設に収容した方が相当と思料し、少年法第四五条第五号但書により送致するものである。

なお前記窃盗未遂事件の一件記録(一部)の写を添付する。

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